最高裁判所第一小法廷 昭和32年(さ)9号 判決 1960年2月04日
主文
原判決中判示第一の罪に関する部分を破棄する。
被告人は原判決判示第一の別表一ないし一八の各罪につきそれぞれ罰金一、〇〇〇円に処する。
右各罰金を完納することができないときは金二〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
理由
本件非常上告申立の理由は末尾添付書面記載のとおりである。
よって記録を調査するに、被告人に対する酒税法違反被告事件について、原審鹿屋簡易裁判所は、昭和三二年三月二五日、被告人は法定の除外事由がないのに免許を受けないものの製造した焼酎を、第一昭和三〇年五月二四日頃より同三一年八月頃までの間前後一八回に亘り被告人肩書居宅において坂元満雄外一一名に対し別表記載のとおり合計八升九合を代金合計三、一一五円でそれぞれ譲り渡し、第二昭和三一年一〇月二九日被告人肩書居宅において一斗七升七合五勺を所持していたものであるとの事実を認定し、右第一の所為につき酒税法四五条、五六条一項四号(懲役刑撰択)刑法二五条を、右第二の所為につき酒税法四五条、五六条一項四号(罰金刑撰択)、同条二項、刑法一八条を各適用の上、被告人を、判示第一の罪につき懲役三月に処し、裁判確定の日より三年間該刑の執行を猶予し、判示第二の罪につき罰金三、〇〇〇円に処し、該罰金不完納の場合は金一五〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、押収にかかる証一号ないし証五号の各物件はいずれもこれを没収する旨の判決を言い渡し、該判決はその上訴申立期間の経過により同年四月九日確定した事実が認められる。
しかるところ、裁判所法三三条一項二号によれば、簡易裁判所は、撰択刑として罰金刑が定められている酒税法五六条一項四号違反の罪について裁判権を有するけれども、同条二項は、その但書の規定する例外の場合を除き禁錮以上の刑を科することができないと規定しており、しかも原判決判示第一の酒税法五六条一項四号違反の罪は右例外の場合に該当しないことが明らかであるから、これに対し罰金刑を撰択するならば格別、懲役刑を撰択しこれを言い渡すことの許されないことはいうまでもないところである。簡易裁判所がそのような処断を相当であると認めるならば、よろしく裁判所法三三条三項、刑訴法三三二条の規定により事件を地方裁判所に移送すべきである。しかるにこれをしないで、自から敢えて原判示第一の罪につき、前記のように、懲役刑を選択の上これを言い渡した原判決は、裁判所法第三三条第二項に違反したものであり、本件非常上告は理由がある。
そして、原判決の判示第一の罪に関する部分は被告人のため不利益であると認められるから、刑訴法四五八条一号に従い、原判決中右の罪に関する部分を破棄しこれにつき更に判決することとする。
原判決が確定した判示第一の別表一ないし一八の各事実に法律を適用すると、右はいずれも酒税法五六条一項四号、四五条に該当するから、所定刑中罰金刑を撰択の上、所定金額の範囲内において被告人を主文第二項のとおり処断し、なお、罰金不完納の場合における労役場留置につき刑法一八条に則り主文第三項のとおりこれを定め、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 下飯坂潤夫)